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明日への視角

政治資金規正法のふしぎ

成田憲彦【駿河台大学名誉教授】

 今国会最大のテーマの政治資金制度改革は、与党統一法案の取りまとめに失敗し、自民党単独での法案提出となった。果たして会期内に改革が実現できるかおぼつかない状況にある。自民党は、出所を秘匿した企業マネーと政策活動費という名の党の機密費を、なんとしても守りたいように見えるが、果たしてそれで国民の理解がえられるか、厳しい状況に追い込まれていると言えよう。
 1999年に企業献金が禁止されてパーティーが盛んになったように、日本の政治資金制度は規制と抜け穴のモグラたたきの繰返しでゆがんだものになっている。ゆがんだものという意味は、企業マネーが許容か禁止か不明なように、制度が一貫性と合理性を欠いていることである。同時に政治資金規正法は規制対象者が立法者として作っている法律だから、国民が気づかないところで規制の実効性をそぐ工夫がいろいろなされている。
 政治資金規正法を読んで感じるふしぎは、細かなルールは書かれているが、罰則以外にその履行を担保する仕組みが一切ないことである。総務大臣や都道府県選管は、収支報告書の提出先だが、期限内に提出されなくても督促の権限はなく、今回のように違反が明らかになっても訂正を命じる権限もない。これに対して道路交通法は、車両や歩行者にルールを守らせるための公安委員会や警察官の権限や任務の規定が随所にある。火薬類取締法では経済産業大臣や都道府県知事が、動物愛護法では環境大臣や都道府県知事が同様の役割を与えられている。
 道路交通法での公安委員会や警察署長、警察官の役割は、免許の交付・取消、交通規制、取締り、交通事故への対応、違反状態の回復措置、青切符の交付など多様である。政治資金に引き当てれば立入調査、改善勧告、訂正命令、政党助成金の返還命令、政治団体の資格停止、反則金などが考えられよう。ルールを守らせるためには、はるかに効果的と言えるのではないか。現在の政治資金規正法は、公安委員会や警察官の登場しない道路交通法のようなものである。

生活経済政策2024年6月号掲載