ドイツの脱原発は実現した
坪郷實【早稲田大学名誉教授】
ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機の影響を受けて三ヵ月半遅くなったが、2023年4月15日に、ドイツで稼働していた残りの三基の原発は停止し、すべての原発が廃炉にされる。ドイツは天然ガスのロシア以外からの新規調達など対応を迫られたが、電力不足にはなっていない。脱原発を進めながら、フランスも含め周辺国に電力を輸出する国である。社会民主党、緑の党、自由民主党の三党によるショルツ信号連立政権は、エネルギー転換の目標として、「2045年の気候中立、2030年までに電力における再生可能エネルギーの比率を少なくとも80%に、2030年までに海上風力30ギガワット」を挙げている。2022年の電力における再生可能エネルギーの比率は46.2%である。
ドイツの脱原発が実現するにあたっては、市民の環境意識の高さと、50万人規模の会員を擁する複数の環境団体をはじめとする反原発運動が基盤となり、シュレーダー「赤と緑」の連立政権とメルケル保守リベラル政権という二つの異なる政権による政治的決定が行われたことが重要であった。この政治的決定には、それぞれ原発大事故が出発点にある。
1970年代に原発を推進した社会民主党は、1986年の旧ソ連ウクライナ・チョルノービリ原発事故をきっかけに、「10年以内に脱原発は可能」と方向転換をした。多くの労働組合も脱原発へ転換した。社会民主党と緑の党は脱原発で一致し、1998年連邦議会選挙で初の与野党が入れ替わる政権交代を果たした。この「赤と緑」の連立政権は2002年に2018年頃の脱原発を決定し、再生可能エネルギー促進法(2000年)を作った。他方、メルケル保守リベラル政権は、2011年の東京電力福島第一原発事故をきっかけに、原発稼働期間延長を撤回し、2022年までに脱原発を行う決定をした。この決定の根拠を示した「安全で確実なエネルギー供給のための倫理委員会」報告書は、フクシマでリスク認識が変わり、ドイツでも原発大事故の可能性があり、原発よりリスクの少ないエネルギーによる代替が可能であると述べている。
ドイツは、将来世代を意識して、意欲的な再生可能エネルギーへの転換の目標を掲げ、脱原発を実現し、さらに脱石炭火力を目指している。地震国日本においても、脱原発の議論と共に、電力を再生可能エネルギーで賄う意欲的な議論が必要と思う。
(生活経済政策2023年6月号掲載)