働き方と処遇の「常識」はどう変化していくのか?
秃あや美【跡見学園女子大学教授】
労働者が担当している仕事内容と、実際に受け取っている賃金のバランスをチェックするためのツールとして、職務評価がある。私は職務評価を体験できる講座を担当することがあり、大学の授業にも取り入れている。学生たちは、アルバイト先での自分の仕事と、一緒に仕事をしている正社員の仕事について、職務評価点を算出し、自分の時給と、正社員が受け取っている給与を時給換算して比較している。
このような講座を通して、賃金に関するあいまいな「常識」を相対化し、仕事に見合った賃金とは一体何なのか、同一価値労働同一賃金はどう実現させられるのかを学生に考えてもらいたいと思っている。しかしこの数年で学生の回答に変化が多くみられるようになり、むしろ私の「常識」こそが、問われていると感じるようになった。
というのも、職務評価点との関係からみると、学生アルバイトの時給のほうが、正社員よりも高いという回答が多くみられるようになったからである。正社員の時給が、職務評価点のわりには低すぎる。求人サイトなどの情報を参照し正社員の時給を計算することを学生たちに推奨しているものの、正社員の受け取っている給与を正確に知っているわけではないから、その給与額を過小評価しているのかもしれない。それにしても、正社員の時給が仕事内容に見合わず低いという回答が以前よりもかなり増えている。学生の多く働くサービス産業や販売などの職種では、仕事内容とは別に、正社員の時給がアルバイトに近づいているのだろうか。
厚労省の『賃金構造基本統計調査』の職種別のデータは2020年から変更されてしまい比較は困難だが、例えば「販売店員(百貨店店員を除く)」の「きまって支給する現金給与額」は、2010年:23万9500円、2015年;23万9400円、2019年:24万4900円、職種分類変更後の2020年の「販売店員」は23万2600円である。これは平均値であり、職場の要員や仕事内容の変化を追うことは難しい。
コロナ禍による打撃、副業の解禁や雇用ではない働き方の増加、AI技術の進展など、働く環境はいま大きく変化している。「正社員」のあり方が「劣化」と言われる方向に向かい、新たな「常識」として定着してしまうのではないか。それを食い止める正念場に私たちはいるように思われる。
(生活経済政策2022年9月号掲載)