小規模起業者はコロナ禍でもがいている
木本喜美子【一橋大学名誉教授】
本誌No.267(2019年4月)でとりあげた地方都市で弁当屋兼小レストランを創業した城耕太さんは、コロナ禍で大きな試練を被った。その直前の秋、一緒に創業した姉に取引先が安定している弁当宅配部門を渡していた。彼は、大口注文があった場合の弁当配食、パーティー等のケータリングと小レストランを軸にやっていく心づもりだったが、コロナ禍で大口の弁当注文は皆無となり、イベントもことごとく中止になった。そこで、弁当を友人の店舗に持ち込んで販売するほか、ビン/缶詰めにした漬け物やドレッシング等の加工食品のネット販売など、試行錯誤を重ねてきた。
しかし二児の父として一定金額を家族に入れるにはほど遠い収益ゆえに、夜間、他の飲食店(割烹等)で天ぷらを揚げるなどのアルバイトをした。本業関連以外では、工場での夜間勤務、知人の依頼・口コミに応じてのエアコン設置などで、日銭を稼いできた。弁当の大型注文が舞い込んだ時には(二日で480食分)、寝ずでやりきって最後の納品後、救急搬送・入院となった。
不安があるとすると、「日銭が大丈夫かな、来月は大丈夫かな、収入はあるかな」ということ。日々計算してみてなんとかなるかなと、胸をなでおろす毎日だという。消費者金融に手を出さざるを得ない時もある。「コロナ禍でもがいた人が生き残れるんじゃないか」と自分自身に言い聞かせ、活路を見いだそうと必死だ。持続化給付金は、小レストラン購入時の借金にあてた。2021年には県の給付金に応募し、6軒の同業者仲間を組織してキッチンカーを入手。内装工事を自ら手がけ、共同使用ルールを策定した。10月からこれを稼働させてほぼ毎週末、友人の店舗の敷地内をはじめ県内外のイベントにのせて出店し、仲間と収益を分け合っている。一軒あたり10万円くらいの時もあれば、3-4千円にとどまることもある。
厚労省は今国会に、雇用保険法などの改正案を提出する。会社を辞めて起業した場合、失業手当の受給権を最大3年間保留できるようにし、起業の失敗に備えられるようにするという。城耕太さんは、「ブラックな」雇用環境から離脱して起業に足を踏み入れた就職氷河期世代である。こうした小規模起業者の持続可能性が支えられ、彼らの労働と生活が実質的にまもられうる施策が求められる。
(生活経済政策2022年2月号掲載)