民主主義の持続可能性
山口二郎【法政大学法学部教授】
昨年10月の衆議院選挙で、私は野党共闘の旗を振って、自らあちこち応援にも行ったので、立憲民主党の敗北にはひどく落胆した。もっとも、世間でいうほどの大敗ではないと思う。同党には適度な反省をしたうえで、泉健太代表のもとで、政権を担える党への成長を図ってほしい。
政治的運動にかかわって痛感するのは、参加者の高齢化である。市民の集会などで講演をして、質疑の中では、若者に参加してもらうためにはどんな工夫が必要かといった質問を必ず受ける。それについては、私も知恵がない。冗談半分に、昔大学で暴れた世代が生きているうちに政権交代を起こして、世の中は変えられるという事を若者に実感させるしかないと言うこともある。
欧米では、1990年代後半から2000年代に生まれたZ世代と言われる若者が、政治的に活性化し、気候変動問題などについて発言している。アメリカでは、Z世代が民主党リベラル派の支持基盤である。
何ともうらやましい限りと傍観していたのだが、日本でも変化の兆候があることに、最近気づいた。昨年春から、大学1年生向けの政治学入門という講義を持って、民主主義の実践を意識した話をした。期末レポートの課題に、「政治的無関心の友人に、秋の衆議院選挙に投票に行くよう説得する手紙を書く」というテーマを出したところ、予想外に面白く、説得力に富んだ作品が出てきた。大学教師歴30年以上の私だが、今の1年生はこんなにまじめに考えているのかと良い意味で驚いた。
若者たちに話を聞いてみると、今の1年生は高校時代に入試制度改革をめぐる朝令暮改の大混乱で迷惑をこうむり、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う学園生活の大きな制約でも被害を受けた。大人のすることに対する厳しい目を持っているわけである。みんなの力で世の中を作りかえるという政治の重要性と面白さを彼らに伝えることは、民主政治の持続可能性を保つために不可欠である。
(生活経済政策2022年1月号掲載)