より早期に温室効果ガス排出削減を
坪郷實【早稲田大学名誉教授】
気候変動に関する政府間パネルの8月の第六次評価報告書によれば、2040年に1.5℃上昇の可能性がある。日本政府も漸く2050年温室効果ガス排出ゼロを宣言したが、具体的な計画はまだ検討中である。新型コロナビールス感染症の世界的蔓延の中でも、気候危機への対応は加速しなければならない。ドイツの動向を簡単ながら紹介したい。
第一に、ドイツ連邦政府は、昨年6月に危機克服と未来への投資のために1300億ユーロの景気対策プログラム(2020-21年)を決定した。このグリーン・リカバリー(緑の復興)は、気候危機とコロナ危機を同時に克服するエコ的経済的社会的な復興であり、緑の景気プログラム(再エネ拡充、交通転換、建物の省エネ、産業のエコロジー的転換)と社会的エコロジー的転換を進める構造転換(炭素の価格付け、企業の環境リスクの情報開示等)という二重戦略である。その際、ひとり親、低所得層への支援等、社会的側面が重視される。この機会を捉えて短期的な公共投資により社会的エコロジー的転換の方向付けをし、構造転換により民間投資が続く流れを作ることを目指す。
第二に、ドイツは2019年12月に2050年に温室効果ガス実質ゼロ達成を法的に義務づける気候保護法を制定した。連邦憲法裁判所は、ゾフィー・バックセンら青年が起こした同法に対する世代間公正を求める訴訟に対して2021年4月29日に部分的違憲判決を出した。それは2031年からの排出削減の十分な計画がなく、削減を先延ばしにし、若い世代に負担をかけ、若い世代の自由権の侵害になるからである。ドイツ基本法の20a条は、将来世代に対する責任を果たすためにも、政府、議会、裁判所に「自然的生活基盤及び動物を保護する」行動を求めている。憲法裁は、環境問題専門家委員会の環境鑑定書(2020年)に言及し、専門的知見を判決の根拠づけにした。
9月26日に連邦議会選挙が行われることもあり、判決後のメルケル大連立政権の対応は早く、気候保護法改正案が6月に成立し、従来の温室効果ガス実質ゼロを5年早めて2045年に達成し、30年までに少なくとも65%(従来は1990年比55%) 、40年までに少なくとも88%を削減する。気候保護は連邦議会選の争点になっている。
このようにドイツでは、コロナ下でも気候保護への市民意識が高く、世代間公正の観点から温室効果ガス排出削減を前倒しにする動きがある。
(生活経済政策2021年9月号掲載)