未来への責任、未来への投資
遠藤誠治【成蹊大学法学部教授】
11月のアメリカ大統領選挙は、民主党のバイデン候補が勝利を収めた。バイデンと副大統領候補ハリスは勝利演説で、アメリカ社会の多様性をふまえ、人々の命を守る新型コロナ対策を最優先として、国民的な融和と団結、中間層の再生と全ての人の可能性の追求を可能にすることを訴えた。困難な状況に取り組んだ歴代大統領を想起しつつアメリカの魂の癒しを唱えた彼らの演説は、アメリカの底力を感じさせた。
しかし、現職のトランプ大統領は自己愛への耽溺ゆえに敗北を認めず、虚偽を拡散して人々の間の分断をさらに深め、民主政治の基礎を掘り崩すことも厭わない。実際、今回の選挙は、アメリカが抱える深い分断を再び可視化させたし、トランプの得票数や議会の勢力配置は、バイデン政権の政権運営が容易ではないことを予想させる。
しかし、筆者としては、20世紀型社会モデルと21世紀型社会モデルの争いにおいて、後者が勝利を収めたのが今回のアメリカ大統領選挙であったと位置づけたい。そして、それが世界にとって好ましい方向への大きな転機となりうると考えたい。
世界認識が1980年代で固定化した現職大統領が体現していたのは、化石燃料の大量消費を前提に、過去世代の富の産出方法を墨守して、次世代への責任をとろうとしない姿勢だ。それに対して、民主党は、地球温暖化の抑制を基本課題としているが、それと経済成長がトレードオフだとは捉えていない。再生可能エネルギーへの転換を基軸に、新たな産業への転換、新規雇用の創出、高度にネットワーク化され意思決定が分散化された新たな社会の創出を目指そうとしている。こうしたグリーン・ニューディール構想では、高額所得者への課税強化による税収確保や、インフラ整備と雇用創出という政府の役割の再構築も想定されている。21世紀型の社会モデルを実現して次の世代のために責任を果たそうとする姿勢だといって良いだろう。
そうした転換は簡単ではない。しかし、世界の多くの国々がバイデンのアメリカを想定した温暖化対策を表明している。それだけでも大きな変化だ。むしろ我々が問題とすべきなのは、多様性と自由を基礎にした21世紀型社会への転換を阻害する、日本式20世紀型社会モデルを墨守する既得権だ。政権交代を必要とする所以である。
(生活経済政策2020年12月号掲載)