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明日への視角

コロナ対応と政府・政治への信頼

住沢博紀【日本女子大学名誉教授】

 欧州、日本を含む東アジア諸国において、新型コロナウイルスの第1波が収まりつつあるのを受け、政府・政治家への危機対策の評価付けが始まっている。韓国、台湾、それにドイツが高い評価を受け、EU諸国も多くの死者を出しながらも、トップの政治家のリーダーシップに関して国民の支持を得ている。例外は安倍政権とトランプ大統領だが、吉村洋文大阪府知事やクオモ、ニューヨーク州知事という、どちらも比較される軸ができたことにより、彼らの独断的な政治の欠陥が誰の目にも明らかになった。
 私はたまたまロックダウン直前の2月24日から3月11日まで、ドイツ・スペインを旅行していたこともあり、ヨーロッパの動向には注目していた。結論からいえば、イタリアとドイツには驚かされた。医療体制が脆弱で、政府の樹立さえ困難なイタリアで、NHS (国民健康サービス)を持つイギリスよりも死者が少なかった。旅行中にはイタリアの医療崩壊が報じられていたので、改めてイタリアの市民社会の強さに感銘を受けた。
 ドイツの場合は、3月18日のメルケル首相のテレビ演説が称賛されている。私もリアルタイムで見ていたが、民主主義のもとでの人々の日常生活の制約と自由の制限がいかに異常な事態であるか、しかし今必要である事を、説得力を持って国民に訴えていた。
 しかし私はメルケル個人よりも、ドイツのシステムに注目したい。赤字国債を極度に嫌っていたドイツで、「多額の債務」を73%の国民が賛成したという。緊縮財政を旗印にしていた保守政治家たちが、「危機の今こそ財政的な余裕を活用すべし」と力説する。要するに国民は政府・政治を信頼し、政治もそれに答えている。連邦政府と州政府の連携・協働も機能した。
 これはあたり前のように見えてそうではない。1980年代までは、政府、行政、国民の間でこうした信頼関係が普通だった。しかしグローバル化とネオリベラルの時代には、ほとんどの工業諸国でこの関係は崩壊している。ドイツが「当たり前」を残しているは、過去30年間、政治的な革新を実行してきたからである。1980年代の「緑の党」の成立、1990年のドイツ再統一と旧東独の復興、2度にわたる大量の移民・難民問題、EU統合の深化など、多くの未解決の問題を残しながらも、変わらないためには、いかに変わることが必要かを示している。
 ひるがえって日本を見てみよう。30年前の政治改革の課題とまだ向かい合っている。その帰結は、行政、政治、そして経済社会の劣化である。安倍内閣の欠陥に国民レベルで気づいた今、その退陣要求が出発点となるだろう。

生活経済政策2020年7月号掲載