世界にできることは…
杉田敦【法政大学法学部教授】
本年9月に襲来した台風15号は各地に爪痕を残したが、なかでも千葉県内の被害は大きかった。千葉市では、観測史上最大の風速を記録し、あちこちで倒れた巨木が目についた。とりわけ房総半島の被害は深刻であり、50万戸を超える停電が生じ、一週間たっても約10万戸で停電が続いていた。筆者の勤務する千葉大学でも、自宅が被害に遭った人は少なくなかったが、停電とともに断水が生じ、折からの猛暑と重なったことで、生活は困難を極めたとのことである。コンビニは営業を停止し、数少ない営業中のガソリンスタンドには長蛇の列。特に体の弱った高齢者のいる家庭では、命の危険さえ感じる状態だったという。千葉県は日本で有数の農業県だが、停電で牛乳生産がストップするなど、一次産業への影響も深刻である。
県内の自治体が混乱状態に陥る中、千葉県庁の動きは鈍く、災害対策本部の設置や市町村への職員派遣は明らかに遅れていた。初動体制の遅れについては、千葉県知事も記者会見で認めているほどである。
近年、地球規模の気候変動、温暖化などの変化が、続発する異常気象の背景にあるという見方が強い。この困難な課題に立ち向かうには、各国政府はもちろん、国を超えた協働作業が不可欠だが、温暖化を正面から認めないアメリカの現政権をはじめ、動きはやはり鈍い。
この夏に封切られた人気映画『天気の子』は、若い登場人物たちの切ない思いが悲しいほどまでに伝わる、映像もストーリーも美しい映画である。しかし彼らを包み込む世界は雨が降り続き、海面が上昇しており、まるで気候変動の進んだ世界の末路を見るようだ。
映画の主題歌「愛にできることはまだあるかい」になぞらえて言えば、「世界にできることはまだあるかい?」ということになるだろうか。そう、「まだある」と信じたい。
(生活経済政策2019年10月号掲載)