「国難」を深めたアベノミクス6年
大沢真理【東京大学社会科学研究所教授】
2018年9月に自民党総裁選挙で安倍晋三候補が3選を果たし、内閣改造後の初閣議で首相談話が決定された。それは、「国難とも呼ぶべき少子高齢化に真正面から立ち向かい、…全ての世代が安心できる社会保障制度へと改革を」おこなう」としている。少子高齢化が「国難」であるとの位置づけは、2017年9月25日の首相記者会見でもおこなわれ、国難を突破するためとして衆議院が解散されたのだった。
だが、少子高齢化は最近に深刻化したものではなく、10年以上以前から想定されていた。そして社会保障制度を全世代対応型に再構築する必要性は、麻生内閣が設置した安心社会実現会議の2009年の報告書に盛り込まれており、安倍首相自身が2013年8月に受け取った社会保障制度改革国民会議の報告書でも提言された。
麻生内閣以来なら10年、安倍首相が報告書を受け取ってからでも5年、いったい日本政府は、とりわけ政権基盤が強固な2012年末以来の安倍政権は、なにをしてきたのだろうか。
全世代対応のための社会保障制度の再構築、なかでも子ども・子育てを支援するシステムの構築には、民主党内閣が踏み出し、短い政権担当期間に満身創痍になりながら社会保障・税一体改革を成立させた。ところが、アベノミクスがしてきたことは、総じてそのネグレクトである。
安倍政権下で、実質賃金は大きく下落したままであり、社会支出の対GDP比は実際に低下してきた。税・社会保険料の純負担は上昇し、低所得層ほど上昇率が高い。反面で高所得者・資産家や企業に対しては、各種の減税がおこなわれている。子どもへの「大胆な投資」なるものは、かつての民主党の政策からのお粗末な盗用にすぎない。
日本の税・社会保障制度には、政府が所得再分配すると共稼ぎやひとり親の貧困率がかえって高まってしまうという、重大な逆機能がある。民主党政権は税の所得再分配機能の回復も目指していたが、道半ばにも達しなかった。次世代の14%が(子どもの貧困率)、貧困のなかで人生をスタートさせるという事態こそ「国難」というべきである。国家が作り出している「難」であり、やがて国家の存続を危うくするという意味で。
アベノミクスの6年はそれを深めたのである。
(生活経済政策2019年2月号掲載)