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明日への視角

マクロン大統領下のフランス社会民主主義

西川潤【早稲田大学名誉教授】

 2017年5〜6月、フランスでは「中道派」マクロン新大統領とその政治運動「共和国前進」が圧倒的な強みを発揮して国政を担うことになった。
 1980年代以来、右派と国政を争ってきた社会党(PS)の実績とは何だったのか、という問いが当然出てくる。2012年以降のオランド政権下でPSは、国民議会、また地域圏等の地方選挙で多数派を形成していた。PS独自の社会的・連帯経済作りも進展する。
 だが、オランド政権時代に、社会党は二重の危機に直面した。第一は、グローバル金融危機、国家債務危機で、失業対策、富裕税等の公約が反故となった。また、ヴァルス首相(当時)ら右派の主張する金融・労働規制を緩和する新自由主義政策と、伝統的な福祉配分を重視する左派の対立が激化した。2013〜14年のマリ出兵、イラク爆撃は、2015年来パリ、ニース等でテロが相次ぐ結果を生み、戒厳令と難民・移民流入により市民の不安も高まった。結局のところ、オランド政権は、グローバル化に伴う景気・失業対策と構造改革、EUの課する財政規律と緊縮政策等、あい矛盾する政策に立ち往生したといえる。
 国民の不安の受け皿になったのは国民戦線(FN)で、党首マリーヌ・ルペンは五月大統領選挙で次点につけた。FNは、反EUと反移民のナショナリズム=ポピュリズムにより、人気獲得を目指したが、国政の場での支持を大きく伸ばすには至らなかった。マクロンが「共和」(「自由、平等、連帯」)という古くて新しい価値を掲げて、ポピュリズムの流れを吸い取ったからである。
 マクロン内閣は、既成政党出身者を登用し「超党派」を目指すと共に、閣僚の半数を民間に求め、民間活力を重視する。この「民間」には非営利・社会的連帯をも含み、社会党政権下で創設された連帯省も残った。マクロンは社会党政権の地域分権、労働シェアリング等の実績の上に民営化事業、構造改革、EUと結んだ国際化等、経済改革に力を入れていくと見られる。
 マクロン新政権は、フランス国民が国際化、市民統合に再生の期待を託した結果と言える。新政権が、グローバル化、構造改革、外国出生者とその家系等社会下層の社会統合の三つの仕事にどう向き合っていくか、に社会民主主義の現代的課題があると言えるだろう。

生活経済政策2017年7月号掲載