同一価値労働同一賃金への道
禿 あや美【跡見学園女子大学准教授】
現政権が同一労働同一賃金を政策に掲げてから、同一労働同一賃金や同一価値労働同一賃金に言及する言説が増えてきた。加えて厚生労働省も、2016年末までには、正社員と非正社員の待遇差の何を合理的と考え、何を不合理と見るのかに関する「ガイドライン」を策定する予定となっている。
これらのさまざまな議論が盛り上がることそのものを筆者は歓迎している。というのも筆者はこれまで同一価値労働同一賃金原則に基づいた仕事と賃金に関する調査プロジェクトにいくつか参加してきた。日本の女性労働者や非正規労働者の状況を改善するためにも、こうした議論が欠かせないと考えているからである。
しかし議論を見ていると、国際的に積み上げられた同一価値労働同一賃金の議論を踏まえないものが多いのが気になる。まず、同一労働同一賃金原則では異なる職種や職務を比較できないため、同一価値労働同一賃金原則へと発展してきたことが理解されていない。これは重要な点で、多くの異なる職種や職務で構成される同一企業内の正社員と非正社員の職務を比較するには同一価値労働同一賃金原則でないと対応できないことが理解されていないことを示す。また同一価値労働であるか否かの測定は、労使の参加によって、原則として「知識・技能、責任、負荷、労働環境」の4つの要素からなる職務評価によって行うことも理解されていない。さらに、同一価値労働同一賃金に言及したとしても、同一価値労働を「企業にもたらされる付加価値の同一性」と独自解釈する日本経団連の主張もある。加えて、政府の政策や「ガイドライン」も、雇用形態間での差のうち不合理なのは食堂の利用や福利厚生にある格差にとどまり、基本給にある格差の不合理性を測るものにはならない可能性もある。結局、森岡孝二『雇用身分社会』でも議論されたような、賃金以外も含めた身分的な格差の一つ一つを吟味し取り除かないと、基本給の格差是正にまで議論が到達しないのかもしれない。これらの議論から日本社会の格差の根強さが改めて浮き彫りになる。しかしこうした議論は、同一価値労働同一賃金の実現への道につながっている。
(生活経済政策2016年12月号掲載)