女性票を掴むのは誰か?
三浦 まり(上智大学法学部教授)
安倍政権の女性活躍推進戦略は、当然ながらに評判が悪い。
「トークン(象徴)」となる女性をわずかに登用しても、男性中心のそれまでの組織文化が変わることはない。本当に組織文化を変革するのであれば、男性の働き方、家族責任の果たし方を変えることが本丸であり、女性の「活躍」を「支援」することは、二次的なことに過ぎないからだ。
したがって、安倍政権の女性を徹底的に使い倒そうという姿勢—労働力として、「産む機械」として、自民党の宣伝部隊として—は、女性達の反発を買うことこそあれ、支持を掘り起こすことにはつながらない。
そんな安倍政権の女性登用政策と比べても、民主党の反応の鈍さはどうしたことだろうか。常々、民主党の泣き所は女性だと思っている。チルドレン・ファーストなどの民主党の社会政策は、より根本的な社会の変化につながる可能性があり、それゆえ女性票を掘り起こすはずであるにも関わらず、まったく成功していないからだ。
世界的に見れば、党勢を回復させたい中道左派政権は女性票に目を付け、女性政策やクオータ(性別割当制)を積極的に推進し、政権奪取につなげている。民主党がこの世の習いに従う気配がないのは、政治学者として実に不思議である。
中道左派政党が女性政策を推進するようになると、それまでどちらかといえば保守政党に投票する傾向のあった女性票は中道左派政党に支持を替え、逆に保守政党は男性達により支持されるというジェンダー・ギャップ(性差)が観察されるようになる。日本は政党支持にジェンダー・ギャップが見いだされない世界的に希有な例であるが、その一因は中道左派政党が女性票を得るための戦略性を欠いていることにある。
女性達は政治に何を求めているのか。その声に耳を傾けた政党だけが女性票を掴むことができる。女性を手段として扱い、女性の労働力や生殖能力を管理し利用しようとする限り、下心はすぐに見破られる。
女性達の声を聴こうする政党が現れた時、はじめて意味のある政界再編が起きるのである。
(生活経済政策2014年9月号掲載)