「コンクリから人へ」「人からコンクリへ」―震災復興の基底を見る―
大内秀明(東北大学名誉教授)
民主党のマニフェスト「コンクリから人へ」が、自民大勝で「人からコンクリへ」大逆転、公共事業の予算額の大幅増額である。しかし、こんな政治の「お遊び」は、震災復興の遅れに苛立つ災害現場から見れば、政治不信を増幅するだけだ。復興の前に「コンクリートも人も」深刻な不足に喘いでいる現実が眼に入らないのか?
震災後2年を前に、復興庁は「避難者は、ほとんどが仮設住宅等に入居済み」の報告を出した。「直後に約45万人に上った避難者は、現時点で約32万1千人。仮設住宅や借り上げた民間住宅等への入居が進んだため、避難所は1ヶ所(159人)に減少」残る課題は、コミュニティの弱体化、「孤立防止と心のケア」への支援強化だそうである。
避難所に159人もいる。プレハブの仮設住宅に被災者の72%、32万人もいる。仙台市内の仮設住宅を何度も訪れたが、あくまでも仮設、とても1年2年と長期に住める所ではない。仮設の「仮住まい」だから、定住のコミュニティは出来ないし、孤立で精神状態が狂ってくる。病理や心理の前に、政治や行政、経済の責任が問われないのか?
復興庁は「主要ライフライン・公共サービスの応急復旧は、速やかに完了」と誇らしげにアピールしている。宮城県沖地震、阪神・淡路大震災、今度の震災も、主要ライフライン、公共サービスが優先・先行で、民間は仮設のプレハブに取り残される。まさに「官尊民卑」型復興路線だが、仮設の被災住民が利用できない「主要ライフライン・公共インフラ」は、誰のため、何のためなのか?
「官尊民卑」型復興は、「人からコンクリへ」の公共事業バラマキで、復興資材と人材の不足と値上がりを招き、復興は破綻に追い込まれた。資材不足と値上がりの代表が生コンクリートである。コンクリが無く、さらに職人・技能者の人材が確保できなければ、復興は進まない。深刻な職人・技能者の不足は、単なる短期のミスマッチなどではない。深刻な構造的問題である。
日本型経営を支えた終身雇用は、すでに崩壊している。非正規雇用が増大、建設業の多元重層下請けの下では、職人・技能者は「一人親方」の名の個人請負に変わっている。この個人請負が、派遣型雇用の見直しの中で、他業種に拡大すれば、最早や近代的な「労働力商品」の賃金雇用ではない。労働運動、そして日本資本主義の根底が揺さぶられている。生活研の課題も大きい。
(生活経済政策2013年5月号掲載)