新政権における外国人政策の欠落を憂える
井口 泰(関西学院大学教授)
本年9月、民主党を中心とする3党連立政権は国民の大きな期待を背負って登場した。そこでは、鳩山首相が東アジア共同体の理想を力強く語るのに対し、世界経済危機下で困難な状況におかれた定住外国人への政策について、福島担当大臣は全く発言しない。そもそも民主党のマニフェストには外国人政策への言及が全くない。その矛盾を、与党内で現時点では誰も矛盾と思っていないことは憂うべきことである。なぜなら、国籍や文化の違いによらず、全ての人の権利の尊重と義務の遂行が保障され、共生できる空間を創造する政策のビジョンなしに、東アジア共同体など展望できるわけもないからである。
新政権の外国人政策への無関心は、その理由について憶測を生む。連立与党内に、移民・外国人政策の専門家があまりに乏しいことも事実であろう。外国人労働者受入れ範囲に変更をもたらす政策に対し、頑なに反対を貫く連合の姿勢が影響しているとの説もある。
さらに奇妙なことは、国内の外国人の権利の尊重や義務の遂行が実現できていない現状を飛び越えて、わが国に永住する外国人への地方参政権付与に関する法案の国会提出問題をめぐり、連立与党内の意見対立が顕在化したことである。これには、韓国で永住外国人に地方参政権を付与する法律が制定され、多数の在日韓国人が居住する日本に対し、韓国の大統領が、たびたび、わが国に同様の措置をとるよう要請してきたことも背景にある。
しかし、地方参政権の問題は、今や在日朝鮮・韓国人プロパーの問題とは言えない。2008年末の外国人登録者数は221万人で、うち91万人が既に永住権を有するが、その半数を超える49万人は、中国、ブラジル、フィリピンなどの諸国出身のニューカマーの永住者である。また、地方参政権は、欧州では、地域に暮らす外国人の権利義務の確保を基盤とする社会統合政策の延長線上で、その導入の必要性が主張されている。社会統合政策の推進の展望を持たない新政権が、地方参政権を議論する資格はあるのだろうか。
本年11月26日に群馬県太田市で、外国人集住都市会議の「太田会議」が開催される。厳しい経済不況のなかでも関係諸都市は、外国人住民が地域経済・地域社会の持続的発展に不可欠な存在と考え、関係省庁に対し、外国人の社会保険加入の徹底や日本語学習機会の保障をはじめ、国による制度的インフラの整備を求めることになるだろう。
(生活経済政策2009年12月号掲載)