「サブプライム危機」後の世界
岡田幹治(ライター)
米国のサブプライム・ローン問題に起因する金融不安が、一時の切迫感こそ薄らいだものの、米欧諸国を中心に続いている。影響が実体経済に本格的に及んでくるのはむしろこれからで、世界経済が受ける影響の深刻さについては、現時点ではまだ見極めがつかない。ただ、この危機が世界経済にとって何十年かぶりの転機になるのはほぼ間違いないように思われる。考えられる変化は次の二つだ。
一つは、米国が過剰な消費をし、米国向け輸出で世界が潤うという成長モデルの崩壊である。米国は1980年代以来、生産以上の消費を続け、対外経常赤字を垂れ流してきた。その額は2006年には8115億ドルに達し、国内総生産(GDP)比はピークの05年第4四半期には6.8%にもなった。この不健全な消費があったからこそ、日本も、中国をはじめとする新興経済国も成長できたといえる。
ところが、サブプライム問題の表面化とともに米国の消費と輸入にブレーキがかかり、経常赤字も減りだした。ある試算によれば、米国の経常赤字は年内には半減するだろうという。ざっと4000億ドルもの需要が世界から消えるわけで、米国への輸出で潤ってきた国々は大きな打撃を受ける。言い換えれば、今後世界は米国という大消費市場の縮小を前提にやっていかなければならない。
もう一つは、サッチャー・レーガン流の規制緩和・小さな政府・市場原理主義の終わりである。ケインズ的な福祉国家政策への批判から生まれたこの路線は、冷戦が終わった90年代の世界にグローバリゼーションのうねりを生み出し、ここ数年、世界に高成長をもたらした。
だが、各国経済を活性化させたグローバリゼーションは二つの大きな壁にぶつかっている。格差拡大にともなう反グローバリズムの台頭と、資源・環境の制約である。エネルギーと穀物の高騰は人びとの生活を圧迫する。地球温暖化をはじめとする環境の悪化は人類の生存自体を脅かすまでになってきた。今度の危機をきっかけに世界は、規律と公益と環境をより重視するようになるだろう。
日本でも、政府・自民党が80年代から続けてきた新自由主義的「改革」路線に決別しなければなるまい。雇用、医療、年金などの制度を真に持続可能なものに改め、温暖化防止では実効ある対策を実施することだ。それがこの国の経済を輸出・投資主導型から内需・消費主導型に転換することにつながる。昨年の参院選や4月の衆院山口2区補欠選挙を見る限り、民意もまた路線転換に傾いているのではないか。
(生活経済政策2008年6月号掲載)