選択の時
杉田 敦(法政大学法学部教授)
また参議院選挙が来て、また年金が争点になろうとしている。この3年間、政府は何をしていたのだろうか。そもそもの制度設計のお粗末さに、その後のさまざまな不手際が重なって、この国の年金制度はもはやのっぴきならないところまできている。
宙に浮いているデータを一刻も早く調査・解明して、信頼を回復することが必要である。しかし、それですべてが終わるわけではない。これから一層の高齢化が進む中で、現在の年金制度を維持し続けることは本当にできるのか。国民の多くが疑問に思っている。これまでの経緯にとらわれず、抜本的な改革が必要な時期にきているのではないか。そうした問題点を冷静に見つめ、解決策を提示するという当然の水準に、この国の政治は達していないのだろうか。
雇用問題についても、危機は深まるばかりである。多くの職場で、これまで正社員が占めていたポストが、より不安定な雇用にとって代わられている。いわゆるホワイトカラー・エグゼンプションの導入は、今回の選挙では争点化を避けられるようだが、中期的には、改めて提起される可能性がある。この国の社会的安定の基軸であった、「サラリーマン」という名の中間層が掘り崩されつつある。
前回の衆議院選挙では、「郵政民営化」がこの国に希望をもたらす、と多くの人々が期待したようだ。その期待は、今でも裏切られてはいないか。安倍政権が進めてきた教育改革や、憲法改正に向けての国民投票法制定などは、国民にとって切実な問題の解決につながるものなのだろうか。
後の時代から見て、分水嶺となる政治的瞬間というものがある。今度の参議院選挙は間違いなく、そうした瞬間になるだろう。参議院は衆議院より制度的には劣位であるが、解散がなく、6年間は議席が保たれるため、その構成は大きな政治的意味をもつ。そして、安倍政権が3年後に提起するとしている憲法改正まで、選挙はそう多くは行われない。これからこの国はどの方向に向かうべきか。選択の時は迫っている。
(生活経済政策2007年7月号掲載)